「遭遇の鳥のウタ。逢遇の仮面の笑み。」
「・・・・・・・・」 白い、そら。 ただ「呆然」とその空を見つめていた。 そうして、ぽつり。呟く様な、小さく薄い声を出す。 「―――――・・切ない位・・・見つめ続ければ・・・激しい恋・・・・時をかけてみるよ・・――――――――」
自分が作った、ウタ。 世界は目まぐるしく、自分の事を騒ぐけれど。 自分は「世界」が言う様に、「特別な物」が在る訳ではない。 ただの、一人間なのだ。
「何を・・・感じ続けても・・・・・あなただけ・・・見てる私が居る・・」
誰を、想った訳でもない。 ただ。タダ。只。 何処かで焦がれてる、ウタの中に在る様な、激しい恋。 周りで騒ぐ者たちに興味は無いけれど。 周りで騒いでいる小さなココロには興味が在る。 心、動かされるのだ。
「見つめる・・・偽りの瞳隠す・・恋さえも迷いつづけている・・・――――」
ふ、と。 「何か」を、感じた。
「―――――・・・・・誰・・・?」
否、「何」。
「―――――――・・・これは失礼。貴女の歌声が余りに美しかったもので聴き惚れてしましましたよ」 くすくすと、笑う。その人。 黒い服に、赤い羽根の付いた黒い帽子。顔の右半分を隠す仮面。 丁寧な、口調。 紳士と言う言葉が似合う、それが第一印象。 「・・・・あなた、誰?」
見つめて。
「あぁ・・・・私はジズと申します。以後、お見知り置きを。麗しい鳥篭の歌姫」 ジズと名乗った男は、自分の持つ白い鳥篭を指した。 「・・・・そう。私はかごめ。」 無表情のまま。そう名乗る少女。 黒い服に、胸に飾った白い華。手に持った、白い鳥篭。 小さな、声。 儚げだと、其れが第一印象。 「かごめ・・・。そう、かごめですか・・」 再び笑う。くすくすくす。くすくすくす。その名前が、気に入ったかの様に。 「そうよ」 風が、かごめの髪と服を揺らす。手に持つ鳥篭も。 「あなたは、此処で何をしているの?」 「貴女こそ、此処で一体何を?」 無表情と、笑顔の対話。 呟いた言葉に、くすりと返されたコトバ。 「・・・・・・・・・あなたは、何?」
何を思ったか、そう問い掛けていた。
さも、当然の事を聞く様に。 相手は、くすりと笑って、それに返す。
「・・・・では、逆に問いましょう。」 「・・・・・」 「アナタは、何です?」
ざぁっ、と。 大きな風が吹いた。かごめの服が揺れる。髪が流れる。籠が、揺れる。大きく。 ざぁっ、と。 煩いほどの風が吹く。ジズの服は揺れた。羽飾りも、揺れた。ただ、緩やかに。
「私・・・・?」 「そう。貴女。・・・貴女は私に「私が何か」と問いました。ならば貴女も、その問いに答える義務がある。」 「私はヒトよ。でも・・・・そうね。鳥かも知れない」 「鳥?」 思わず、鸚鵡返しに問うてしまった。 すると彼女は、こくりと小さく頷き、答えた。 「そう。鳥よ。・・・・・あなたは?」 「・・・・・・・・肉体を持たない魂だけの器、とでも称しましょうか。」
くす。
――――――・・・また笑う。
「魂だけの、器・・・」 「そう。魂だけの器。」 「幽霊なの?・・・肉体を持たない魂と言う事は。」 「えぇ、そうですね」 「そう。幽霊なの。」
くすくす。
――――――・・・・・・笑う。
「ねぇ。」 小さく、呼びかけた。 ジズは笑みを絶やさず、かごめを見つめる。 「何でしょう?」 「どうして笑うの?何かが面白いの?」 「・・・・・・・・いいえ。そうではないでしょうね、きっと」 「判らないの?」 「えぇ、何せ幽霊の身ですから」 からかう様な口調。くすくすくす、くすくすくす。 笑いが絶えない。 「・・・変な人ね、あなた。でも、いいと思うわ。深く考えるよりは。」 「深く考える事はいけないと?」 「いいえ。そうじゃないわ」 透き通った、声。 透き通った、瞳。 それらを全てジズに向けて来る。 仮面の奥を見透かす様に。強い光を宿して。 「幽霊の身になってまで、考えるような事じゃないって言ってるの」 「ほぅ」 樹に、背を預けてジズから瞳を反らす。 所詮判らない事だらけだわ、ぽつりと言った。
ふと、見上げた空。 木の葉が日に光に曝されて美しい。
「・・・・・・それでは、失礼致します」
不意に。
そんな言葉と共に、風が吹いて、彼の居た方を見れば。 もうそこに、彼の姿は無かった。 無かった・・・・けれど。
「ねぇ・・ジズ?」
居るような、気がした。
「またあなたと、会えるかしら。・・・・・何処かで」
風。
「・・・・・・・・私は、会いたいわ。・・もう一度。何処かで」
くすくすくす。 ・・・・・くすくすくす。
「愛しい・・・気持ちさえ遠ざかって行く・・・・・声にならない・・伝えられない ――――――――・・・・この想い・・・」
最後の部分を歌いながら、立ち上がった。 あなたには、言わなかったけれど。 きっとまだ此処に居て、聴いているのでしょう。きっと。
「・・・・・・・・・・鳥を、探しているの。」 ぽつり。 空を仰いで。 「私だけの、青い鳥を―――――・・・・。」
そう言い残して、かごめはその場を後にした。
「また、会える事を楽しみにしていますよ。」
くす。
「・・・かごめ」
私には、話さなかったけれど。 告げてくれましたね。きちんと。 そう、貴女の言う通り。私は聴いていましたよ。 貴女のウタも最後まで。
「必ず何処かで会えますよ。」 くすり。くすくす。 「私も、もう一度何処かで貴女にお会いしたいですし」
くすくすくす。 ・・・・・くすくすくす。
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