「黒い森にて。」
 
 
 
 
「あら」
いかにも何か出て来そうな怪しげな夜の森の中。
闇は昼より一層濃くなり、足元さえ気を付けなければ見えない様な。
正しく闇の支配する世界がそこに広がっていた。
そしてそんな中から透き通る、けれど少し寝起きの如く掠れた声が発せられる。
「・・・・貴女、かごめさんだったかしら?仮面紳士様の御友人の」
「友人か如何かは解らないけれど確かに知り合いではあるわ。」
ゴシックロリータと呼ばれるフリルの沢山付いた黒い服に、6cm程の厚底靴で近付いて来た、
赤い瞳に緩く巻く水色の長髪の少女。
背丈はかごめよりも少し高い。靴を脱いでしまえば然程変わり無いのだろう。
話し振りからすると、如何やらあの紳士の知り合いらしい。
「初めまして、リデルと申します。」
細い足を交差して、スカートの裾を持ち優雅な所作で礼をする。
少し動くだけでふわりふわりとフリルが動く。
きちんと挨拶をされたので、礼儀として此方も取り敢えずは頭を下げる。
「話は紳士様から良く伺っていたのだけれど・・・お会いするのは初めてですね」
「私は・・・・彼から一度も聞いた事が無いわ。」
にこりと笑うリデルに、いつもの様に淡々と返す。
そして差し出された彼女の手を取ってふと気付く。
よくよく考えてみると、この場所で出会った時点で気付けたのだが。
「・・・・・・・あなたも、幽霊なのね。」
「えぇ。厳密に言えば、所謂ゾンビかしら・・・私は仮面紳士様の様な幽体と違って、身体がありますから。
でもホラー映画女優としてはそれなりに有名なんですよ」
 
あぁでも、表では出回らないから知らなくて当然かしら。
 
そう言って笑った彼女の表情が、少しだけ寂しげだったのは気の所為ではないだろう。
死んでしまった身の上、もう女優として表舞台に上がる事はない。
例え其れがどんなに優れていようと。
「今度上映される映画があるんです。もし、宜しかったら御招待致しますわ」
「そうね、是非一度。」
「まぁ・・・・ありがとう、かごめさん」
今度は本当に嬉しそうに。女優としての誇りを掲げて。
 
 
 
「あんたらこんなトコで何してんの?」
アルトに近い声の繰る言葉は、初対面の相手に使う物とは思えない程無礼極まりない。
彼女は闇には目立ちすぎる白いワンピースに、黒髪を2つに分け高い位置で纏めていた。
倒れている木に腰掛けているリデルとかごめを、その背後から見下ろす形で立っている。
長すぎる袖は手を覆い隠したまま腰元にあてられていた。
仁王立ちの様な感じだ。
「・・・・・・あなた、誰?」
「すみませんがどちら様ですか?」
2人に略同じタイミングで正体を問われて途惑う。
何せ唐突に現れた自分に動じもせず、すわった瞳で見据える黒服の少女と、
やはり動じず、ゴスロリ服を身に纏い、礼儀正しく問い掛ける少女を前にしているのだ。
途惑わない方が可笑しい。
「あた・・あ、あたし・・・・あたしはロキって言うんだけどさぁ?」
 
どもってしまった。
 
「いやもうそんな事はこの際如何だって良いのよ・・ねぇ、さっきも言ったけどさ、あんたらこんなトコで何してんの?」
「何って・・・・」
「・・・・・・」
「だって何にもないじゃんココ。ただ真っ暗なだけでさぁ。面白くも何とも無いじゃん?
あーでも肝試しとかには良いかも知れないねーココねー、適度に湿っぽくて寒くってさぁ
・・・・・て、だからそんなんは如何でも良いんだって。ねぇ何してんの?」
ちょこん、と膝を折って座る。
2人に短い眉と、少々目付きの悪い目に赤いアイシャドウを塗った顔を近付ける。
良く見てみればこの2人、とても綺麗な顔をしている。
そこらのアイドルに負けず劣らずと言った所だ。
そしてリデルとかごめはちらりと目を合わせて、同時に口を開き答える。
 
「・・・・・・・・・・さぁ?」
 
何をしていたのだろうか。こんな所で。
 
「・・・・・・・・・・はぁ?」
 
何言ってんのあんたら。だいじょうぶ?
 
その短くかつ間の開いた会話に成っていない会話は、その単語だけで互いの思考を理解させるに至ったらしい。
他人が聞いていたら何を言っているのか全く解らなかった事だろう。
「・・・・・んぁ・・うん、まぁいいけどさぁ・・・・」
「所でロキさんは如何してこの様な所に・・・?」
「・・・・・・・・・・その白は、目立つわ」
「迷った!何か知らないけどいつの間にかこんなトコに居てねー、何でだろうねー、えーとそんで、あたし好きなんだよねぇ
こう言う目立つけどシンプルなの。ごめん全部纏めて言っちゃったけど解った?だいじょぶ?よっしゃオッケ!!」
如何やら彼女は勝手に話を纏めて進める傾向にあるらしい。
呆然とロキを見る2人の姿がそれを物語っている。
「・・・でさぁ、ちょっと訊くけどこっから出る道知らない?」
「・・・・・・私も帰らないといけないから、若し良いのなら一緒に行く・・?」
「あら、それでしたら途中まで御送りしますよ」
「ホントー?ありがと!じゃあお言葉に甘えさせてもらうわー!」
すっくと立ち上がった彼女を筆頭に、リデルはゆっくりと優雅な所作で立ち、かごめは静かに立って服を叩く。
そうしてロキは2人に手を差し出して、満面の笑顔で言う。
「じゃ、行こっか」
 
 
 
リデルが小さな灯りを手にして先を歩き、その後にロキとかごめが並んで続く。
時折リデルが後ろをちらりと振り向き、それにロキが笑顔を返す。
かごめは彼女等との会話をいつもの様に淡々とするだけだ。
其々が其々に割とマイペースである。
「ねぇねぇリデルってココに住んでるの?」
「えぇ、まぁ・・・この森の近くにお家があるんです。若し宜しければ今度訪ねて下さいな」
「ん、そうするわ」
「かごめさんも。・・・ね?」
「・・・・・そうね、近い内にきっとまた来るわ。」
「ありがとう」
近い内にと言う言葉にくすりと笑って、そう礼を返す。
 
 
 
そろそろ出口だ。
リデルは足を止めて振り返り、手を差し出し握手を求める。
ふわりと今迄以上に柔らかな笑顔で。
「それでは、お気を付けて」
「えぇ。」
出会った時と同様、するりと手が絡められる。
「ありがと!」
リデルに負けない笑顔で手を取る。きちんと手を出して。
一瞬笑顔を消して何かに気付いた様だが、本当に刹那の出来事で、すぐにもとの笑顔に戻ってしまった。
 
 
 
「それじゃかごめ、元気でね!また何か機会があれば会えるでしょ」
「そちらこそ。・・・・・・・多分、会うわ。彼女とも。」
 
勿論あなたにも。
 
ぽつりと零した言葉に苦笑して袖に覆われている両手を腰に当てる。
そして少しだけ胸を張って。
「なぁにー?あんた預言者ぁ?」
「いいえ、詩人と呼ばれる類の人間だわ。」
「ぇあ・・あんた詩人さんだったんだ・・・・・通りで電波系な訳だわ」
電波、と言う言葉に眉を顰めて「それはあの男の事だ」と言って遣りたかったが、彼女は彼の事を微塵も知らずに居る。
寧ろ知っていたら知っていたである意味驚嘆、感嘆に値する。
・・・・・彼の方は知っていても何ら不思議は無さそうに思えてしまうのは、きっと自分が慣れてしまっただけのだろう。
「会えると思う。そんな気がする、それだけの事よ」
「ふぅん・・・まぁ、期待して待っとくわ!」
にんまりと笑い、手を振りながら走っていく。
彼女は、嫌いではない。そう思った。
リデルの事も、嫌いではない。
寧ろ。
 
 
そして3人が再び会うのは自称『永遠の少年』で神の主催する恒例パーティでの事。
 
 
 
END
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