さくり、と足元で音が鳴る。
昨夜から降り続いた雪が僅かに積もり、目覚めれば世界は輝いていた。

「・・・・・・」

まぶしい。
ほんの僅かの光も反射してしまう白い世界も。
自分の目の前に座って湯気の立つ紅茶を飲む彼女も。
このテラスに陽はさほど入らないといっても、
彼の瞳に写る世界はあまりに眩すぎた。
小さく吐息だけで笑い、自身もカップに手を伸ばす。

あぁ。世界は。
こんなにも美しく、眩く、穏やかだ。


「Mid-Winter Presents」


不意にリデルが口を開く。
「これ・・・美味しいお茶ですね」
ふわりと笑顔を浮かべて、とても嬉しそうに言う。
そんな彼女に眼を細めながら応える。
「あぁ、ユーリが態々持って来たのですよ、貴女のためにと。
 彼のお墨付きですからね、やはり味に狂いはないようだ」

つい先日突然訪ねて来た吸血鬼は、いつもの不貞腐れたような表情で、
やはり唐突に小瓶を差し出した。
年中、昼夜を問わず働く人気バンドには、やはり年の瀬を迎える頃になっても
休みはないらしい。
クリスマス、年の代わりと、世界の大イベントを控える時期は、
彼らは引っ張りだこなのだと言う。

「大変忙しいようです、ですがクリスマスに何の贈り物もないのではと」
「まぁ・・・それで、これを?」
「えぇ。彼の変わりに今度貴女が来た時に出すよう言われましてね」
中々厭そうな表情をしていましたよ、と苦笑してジズは言う。
小さく肩をすくめた。
そっとソーサーにカップを戻して。
リデルは白い世界の中で、白い陶器を両手に包んだまま、
彼の言葉に笑みをこぼした。
その様子に瞳を細める。彼女が愛しくて仕方がない。

まぶしい。

そう思う。
全てが輝いて見えるのだ。
木々の緑や花の色、空の色や夜明け前の薄明かりすら。
美しいと、そう思える。
独りでは感じ得なかったことだ。

「あの、仮面紳士様」
そっとかけられる柔らかな声が心地よく耳を打つ。
「何です?」
自然と笑みが浮かぶ。
「すこし、過ぎてしまいましたけれど、その・・・クリスマスの贈り物です」
ごそごそと脇に置いてあった小さな袋を探り、包みを取り出した。
両手でそれを持ち、ジズに差し出す。
「そんなに立派な物ではないんですけど・・・・」
「いえ、貴女からの贈り物であればどんなものでも嬉しいですよ。
 ありがとうございます、リデル嬢」
受け取ると彼女は照れたように笑った。
「・・・・では、私も何か贈らなくては」
「え、あ、いえ!そんな、お気になさらず!」
「そうはいきませんよ、女性から贈られたのに何も返さないのでは
 紳士の名が泣きます。先に贈られただけでも十分らしからぬことなのに」
慌てる彼女に小さく笑い、彼は席を立つ。
部屋を見渡し、暖炉上にアンティーク調の小物入れがある事に気付く。
それに向かって歩き、蓋を開いて中を探る。
「・・・・・」
と、ひとつのものに目が留まり、それを手にして戻った。
リデルはどうする事も出来ず、落ち着かない様子でジズを見つめた。
「いいものを見つけましたよ」
「でも・・・!」
なお何かを続けようとする彼女に微笑み、そっと手をとり手の中に何かを落とす。
「・・・・?」
しゃり、金属が触れ合うような涼やかな音がして、そっと手を開く。
「ネックレス・・・?」
銀色の鎖に翠の飾りの付いた美しい装飾のものだった。
ジズは至極穏やかに囁く。
「・・・・生憎とここにはそんなものしかなくてね。申し訳ありません」
「・・・・・・」
無言のままの彼女を不思議そうに見つめ、ふと思い至る。
「お気に召しませんでしたか?」
「いえ、いえ・・・っあの」
ぎゅっと手の中のものを握り、しっかりと彼を見つめて。

言葉が出てこない唇がもどかしい。
息が詰まる喉がもどかしい。

リデルは震える唇をそっと開いた。
ジズはただ穏やかに彼女を見つめ、待っている。
「紳士様・・・っ」
「はい、何でしょう?」

穏やかに見つめる瞳が愛しい。
苦しいほどの心が全て伝われば良いのに。


「ありがとう、ございます」

 

<アトガキ>

クリスマスとうに過ぎてますがフリーSSです(沈
どうぞお持ち帰り下さい。
アンケートではジズリデ、短編、甘い話をと答えられた方が多めでした。
ご協力下さった方、どうもありがとうございました。
また機会がありましたらどうぞ宜しくお願い致します。

プレゼントの件ですがリデル嬢は皮の手袋(黒)、
ジズさんはネックレス(母の形見)をそれぞれに贈りました。
・・・・形見ってセリフをちょっと言わせたかったんですが
駄目でした。そして当初は指輪の心算でした。
婚約しちゃえばいいのにもう(ぇ

それではここまでのお付き合い、ありがとうございました。

 

※2006年クリスマス企画SSです。配布は終了しています。

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