とろりと蜜は零れて。 甘い匂いで満たす。 濡れた罪なら、もっとぬらして。 あなたはわたしの。 わたしは、あなたの。 『モノクロの蜂蜜』 「・・・ぅ」 組み敷かれて、触れ合う。 彼は帽子を脱いで仮面を外して、上着を多少寛げた格好で彼女を覆っていた。 彼女は脱ぎ難いためか、黒と白のコントラストも美しい、ゴシックロリータを纏ったまま。 脚を下からゆっくりとなぞると、僅かに声を漏らし身を竦めた彼女にジズは微笑する。 「・・・・・・やめますか?」 その雰囲気を含んだまま、ジズはリデルの耳元に深く低い声で囁く。 その瞳は彼女を愛しむものだ。 耳元にかかる甘い息か、染み込み食んで行くように鼓膜を振動する声音にか。 軽く息を詰めた彼女の、その淡青色の緩く巻いた髪を撫でてやる。 気を、落ち着けるようにと。 押し潰されそうであろう緊張を解すかの如く。 しかし彼女は数度小さく首を振り、僅かに震える唇を動かした。 「大丈夫、ですから・・」 幾ら大丈夫だと口で言おうとも、恐ろしいに決まっているのだ。 少なくとも。 触れる事が躊躇われるほど純粋で、未だ穢れを知らない白百合の様な彼女には。 「本当に?」 今なら、まだ引き返せますが。 今の私には未だそれ位の理性はありますから。 言うまでも無いだろうが、こう謂うことは、急いてするものではない。 徐々に徐々に距離を詰めて、そうして慣れてからするものなのだ。 心中でそう思い、言外にそう言う。 今のこの状態ならば、まだやめる事ができるのだ。 彼女が一言嫌だと口にすれば、すぐにでも止めてやれる。 例え今そう言わなくても、進める内に言ったなら止めてやれる。 それ程に、彼は大人だった。 けれども彼女が煽るならば、止めてやれる自信は皆無だった。 自分も死んだ身とはいえ一応は男なのだから、好きな相手にそんな状況で煽られて、堪えられる筈が無い、とそう思う。 自分は、彼女が好きなのだ。 否、最早好きだという感情のみでは収まるまい、言い切れまい。 彼は彼女に恋をして、そして愛した。 彼女は彼に恋をして、そして愛した。 詰まる所、彼が彼女に抱くのは、推し量れないほどに大きな愛情だ。 故にリデルを大切にしてやりたいと言う想いが強い。 故にジズは、いついかなる時もリデルに対して至極優しい。 もとより、貴族階級の人間であった彼は、勿論他の女性全般的にも優しくはあるのだが。 それとはまた別の意味での優しさを、ジズはリデルに対して向けている。 しかしそれを知るのは彼自身と極一部の敏い者たちのみであって、恐らく彼女はその区別が出来ていない。 若しかするとそれはジズが今までにしてきた事への贖罪なのかも知れないが。 ジズはリデルの顔の横に両手をつき、体を支えた格好で問うた。 「本当に、宜しいのですか?」 「・・・・」 こくり、と。 極々小さな頷き。 全く妙な所で頑固な娘だ。 そんな所もまた、愛しくあるのだけれど。 僅かに苦笑してもう一度髪を撫でてやる。 手袋の指で前髪を避け、露わになった額に軽く触れるだけの口付けを落す。 ほんの一瞬。 少し目にかかる程度の銀色の前髪が視界の端を覆う。彼女を見るのには些か邪魔すぎた。 しかし気に止めた風も無く、左手で邪魔な髪をかきあげる。 そして髪を抑えたまま、今度は口付けを唇におとす。 きゅ、と閉じた目と、詰めて止めた息がいとおしい。 唇を離し、微笑んだ。 「ぁ・・・っん」 仰け反った白い首に、噛むように吸い付く。 ぬるりとした舌の感触が、酷く非道く卑猥だった。 自分を嫌っていて、リデルを気に入っている、暇つぶしが苦手で不器用で気紛れな吸血鬼を思い出す。 今は人の血を吸わなくなった彼だが、昔は吸っていたと聞く。 それを思い出す。 自分は吸血鬼ではないがこう云う行為は中々良いものかも知れない。 頭の隅でそんなことを考え、肌蹴た胸へと場所を移す。 掌で確かめるように身体の線をなぞった。 身を起こし、荒い息を繰り返すリデルを見下ろす。細い脚を抱える。 脹脛の辺りにジズの唇が当たる。 「あ、ぁ・・・・?」 僅かな感触に気づいたリデルがぼんやりとした瞳でジズを見た。 笑う。 白い手袋の指が。 抱えられた両脚の間に伸びて。 つぷん。 「ひあ、ぁっ」 浸入。 「おや」 ジズが感嘆にも驚嘆にも似た声を出す。 しかしそれは平然としたものにしか聴こえず、然程驚いている様には見えなかった。 そして堪らずに大きく声を上げたリデルは、反射的に口を抑える。 「んんっ、・・・・・ん」 鼻に掛かって漏れ聞こえる声は震えが混じっている。 「そんなに、感じてた・・・・・?」 低く低く。笑いを含んだ音声で耳元に囁く。それは最早吐息に近い。 ジズとリデル以外には聞こえない程の声量で。 くちゅり、とまた指が動く。 大きな動きではなかったが、湿った個所で微細な音を奏でるには充分過ぎた。 リデルが眉を寄せる。 赤い瞳が潤んでいる。 瞬きで、先程から溜まっていたのだろう、涙が頬を伝い落ちた。 ジズの指が滑る内壁を擦った。 リデルは呼吸が苦しくなったのか口を覆っていた手を離す。 「は、んっ・・ぁ、や・・・・!」 探るように手を伸ばし、皺の寄ったシーツをきつく握る。 彼は笑みを浮かべたままで指で内部を探りつづける。 「や、・・・や・・・・・・!」 いやいやと首を振る彼女に、問い掛けた。 「何が嫌なんです?」 云ってくれなくては止めようがないと加え、彼女を見詰める。 額に張り付いた髪を払ってやった。 まだ荒んでいる息で、途切れ途切れに涙混じりの音を紡ぐ。 云ううちにも涙が零れる。 「てぶ、くろ・・・・・が・・・」 「手袋が?」 「も・・・・ぬるぬるして、て・・・っ、なか・・やだぁ・・・・・!」 何だかとても変な感覚だ、と。 どきりとした。 まさかこんな台詞が彼女の口から漏れるとは思ってもいなかったのだ。 この状態が招いたことだろうか。 思考が麻痺しつつあるのだろうか。 どちらにせよ、どう道を誤っても、素面のリデルがそんなことを口走るわけが無いのだ。 育ちもよくて、決して大胆などではなく、そしてどちらかといえば消極的な彼女が。 沈み込ませたままの指を引き抜く。 ・・・・嗚呼。拙い。 あまり宜しくない事この上ない状態に陥ってしまった。 出来る限り耐えようと思っていたのに・・・。 嗚呼。 何と言うことだろう。 全くもって自分が情けない。 なんてことをしてくれたんだ、この娘は。 ジズは心中でこっそりと毒気吐いて、冗談じゃないと溜息を吐いた。 本人が無意識に、無認識にする発言は非常に凶悪な凶器だ。 「・・・・ねぇ、リデル嬢?」 「・・・・・?」 「申し訳有りません。私の・・・我慢の限界だ」 「っ、え」 呼びかけの後に小さく首を傾げたリデルに、ぼそりと真剣な顔をして告げる。 戸惑いの声を上げたリデルの両足を抱え直す。 ズボンから引きずり出したモノを先程まで指が潜り込んでいた個所へ宛がう。 指とは比にならないほどの量が身を犯す。 「ふあ、あっやぁああ!」 高く響く。 深く貫く。 愛撫によって濡れそぼった体内は、けれどきつく、されど僅かな抵抗しか見せない。 「や・・・ひ、ぁん、い、はぁ・・・っ」 数度の、大きな抽出の合間に。 リデルはジズに手を伸ばす。 軋み続ける寝台の上。 「ね・・・ね・・・・ぇっ、・・・ふ」 「・・・・ッ、なんです?」 ぼろぼろと涙を流す彼女。 それはひどく艶かしい。 ただその一挙一動だけで彼を誘う。 だから、本人が認識していない無意識の行動や言動は、残酷なまでに凶悪なのだ。 「ね、わたしだけ・・・っ?」 あなたの、そんなかおをみるの。 ひどく追い詰められて。ひどく淫靡で。ひどく真剣な、そんな表情。 舌足らずな、嬌声で掠れてしまった甘い声を出す。 淡青色の散ばる髪が美しい。 その表情と言動に魅せられる。 煽られる。 「・・・・っあ、わたし、だけ?」 「えぇ、貴女だけ」 こんなみっともない表情。 「貴女だけだ」 言葉と同時に、ぐ、と深くまで挿入されて高い嬌声をあげる。 「やああぁっ!!」 「・・・・く・・っ」 眉を寄せ、息を詰めたジズを朦朧とする意識の中で見詰める。 あぁ。初めて知った。彼はこんな表情もするのだ。 本の少しだけ幸せかもしれない。 ほんの少し嬉しいかも知れない。 ねぇ、私だけなのでしょう? 私だけが見られる表情なのでしょう? 私だけの貴方の顔なのでしょう? 「ひぁ、・・・・・ん・・・っぁ」 「リデル嬢・・・貴女のその顔も・・・」 意識が濁る。 白濁色に。 声が遠ざかる。 僅かに聞こえる。 霞がかって。 貴女のその表情も。 貴女の可愛らしいその声も。 すべて、すべて。一つ残らず。 私だけのものでしょう? END <アトガキモドキ。> ・・・・裏。 すみません、冒頭からはっちゃけてぶっちゃけてます(笑) ジズリデ連作の延長線上の裏モノです。 私はこう云う裏的描写が下手なようでして、出来はなんだか微妙なんですが;; ウチのジズリデは相思相愛で大人的恋愛を繰り広げております。 今度はアレです。 表でポップンパーティーでの出来事を・・・!! 幽霊紳士様の嫉妬話です! 書きたい書きたいと云っていてどうにも実行に移せないんですけれども。 まぁ・・早い内に書ければいいな。 て言うかリデル嬢の裏絵を描いて友人Bに渡したら 「これってB級ホラー映画女優って言うよりB級AV映画女優だよね」とか云う話で盛り上がりました。 まんまと「寧ろB級じゃなくてA級で良いよ!」と返されましたが。あー最高。 上記の嫉妬話も彼女とのネタ話での産物です。あー最高。 しかしAV映画って何だ(笑)
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